気のゆくまま筆のゆくまま

日々感じたことを書きます。

良いB級映画悪いクソ映画

・線引きがむつかしい

私は映画を見るのが趣味だ。結構B級映画とかZ級映画を見るのも好きだ。クソ映画を見るのも好きだ…と言っても、私の友人でクソ映画ハンターと呼ばれる人から見れば

「何を戯けたことを言う、君程度の、見る映画を選ぶような豎子がよく言えたものだ。斬奸!」

位のことを言われる程度だ。だが、それでも心を動かすB級(あるいはZ級)映画もある。

以下、ここ1年で見た映画の中から、B級とクソ映画を一本ずつ紹介しよう。

 

・悪いクソ映画―何故この主演でこうなった―

最近見たクソ映画の中でダントツの、トップオブトップのクソ映画は「シティーハンター(ゴールデン・ハーベスト制作)」である。数年前にフランス制作の同名映画があるが、こちらは30年前の香港映画である。

 

 

主演はなんとジャッキー・チェン!私の中の大スターで、今でも映画が公開される度に見に行っている俳優だ。ジャッキー・チェンのイメージを一言で言えば「強い男」だろう。シティーハンターの主人公、冴羽獠も言うまでも無く強い。この二つが合わさったとき、何が起こるか…期待してみた私と先掲の友人は馬鹿だった。或いは気がふれていた。

この映画における冴羽獠(演:ジャッキー)は、とことん弱いのである。殆ど銃を使わない。ジャッキー映画なんだから当たり前でしょと思うかもしれないが、これはシティーハンターなのである。おちゃらけハードボイルドガンアクションが売りの漫画が原作なのだ。

でもジャッキーがやるんだからカンフーとか強いんじゃ…と思ったあなたは甘い。この冴羽獠は乗り込んだ船の船員には兎に角やられ、テロリストにもやられ、挙げ句の果てに勝つためにチュンリーになるという状況である。一応空腹であるという理由付けはあるが、何故空腹なのかまでは語られなかった気がする。空腹過ぎで美女の巨乳がパンに見えたジャッキーが食いつく、という描写がある。

作品の展開も、これ原作いるか?というものだ。香の陰は余りにも薄い。一応原作で出て来る主要キャラの名前を付けた人物が出て来るが、性格は(獠を含めた全員が)原作とまったくといっていいほど違う。序盤のミニ・クーパーとハンマー、コルトパイソンくらいが原作要素だ。

さらに当時日本で流行っていたものを存分に取り入れ、とんねるずの「ガラガラヘビがやってくる」の広東語ヴァージョンが流れたり、「ストリートファイターII」のキャラになったジャッキーがゲームセンターで同じく他キャラになった敵と戦うシーンがあるが、全体的に悪夢のような感じだ。

ここまでさんざん腐してきたが、この記事は数ヶ月前のうろ覚えで書いている。見直せば分かるのだろうが、私にこの映画をもう一度見せるだけの動機はなかった。途中でスケートボードに乗ったチンピラたちと闘うシーンや後藤久美子とのタッグなど良いアクションはあるが、それを足してもなお二度と見るか、という映画だ。それほど、私たちがみたのはおぞましい何かだった。

 

・良いB級映画―資料のなさを逆手にとって―

逆に良いB級映画もある。その名も「ベルリン忠臣蔵」という。「アフリカン・カンフー・ナチス」について書こうとも思ったが、これは私がやるよりも数段優れた紹介があるのでやめる。さてこの忠臣蔵、そもそもタイトルに嘘がある(と言っても上記のシティーハンターほどではない)。作品の舞台は確かにドイツだが、ベルリンは全く出て来ない。設定的にはハンブルクの金持ちが、大石内蔵助と名乗るドイツ人の変人(ただし一人)に殺される話である。最早忠臣蔵ですらない。名前だけ一緒というのは上記と一緒か。

 

ベルリン忠臣蔵 [VHS]

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だが、この映画は面白い。外国人のトンデモ日本観を垣間見ることができる。多分資料がなかったせいだろうが、忠臣蔵という話があって、それが日本で人気(らしい)からサスペンスホラーの題材にしよう、資料ないけど。程度の発想で作られているから、逆に安心して見られる。

大石内蔵助を名乗るテロリストが実業家を殺していく、というストーリーなので当然警察が捜査するが、全く頼りにならない。ヴェネツィアカーニヴァルで市民が被った仮面のような者をつけ、帽子(はちまき?)に「大 石」と大書した内蔵助が、兎に角実業家を殺し、現場に筆で何か書き付けて去って行くのだ。

さて、何故ハンブルクの金持ち達は殺されていたか?理由は日本旅行のとき、大石内蔵助の子孫から伝家の宝刀を盗んでしまったからである。恐らく次の標的は自分だろう…と推測した最後のひとりは用心棒を雇うのだが、何とニンジャが出て来る。ちなみに無から出て来る。

警察も馬鹿ではない。大石を捕らえるべく日本から警視庁(だったと思う)の刑事が送られてくるが、現場に犯人が書き残したものを見て「これは日本の漢字です、名字です」くらいのことしか言わないレベルである。

警察は頼りにならない…というわけで義憤にかられた女性記者が調査を開始する。彼女が眼をつけた相手は若手の会社社長だった。この男、取材に来た女記者を紋付き袴で出迎えるし、後ろに大石家の家紋は浮かんでいるし、盆栽をしているしで兎に角あやしい。

それでも確証を得られなかった記者は情報を洗いなおすことにした。犯行現場を地図上に書き込み、それを線で繋いでみると…?なんと「大石」という字になるではないか。このまま続けば次の現場はここだな…と張り込む記者。本当に来てテロをする大石。なんだかわけが分からないが、かくして悪人の屋敷で大石内蔵助と忍者の決戦になる。

クライマックスで繰り広げられる会話は、何と日本語なのである。しかしこの日本語がとにかく酷い。「ドラゴンへの道」でブルース・リーを挑発する空手家レベルの日本語(「おまぃはぁ~タンロンがぁ~?」みたいな)が飛び出るのである。この映画に力が入るシーンなどないが、更に脱力させてくれる描写だ。いろいろあって大石が勝つのだが、何故ドイツ人が大石をやっていたかと言うと、彼は大石家で修行した身であったからだそうな。説明が雑だが、作品内の描写もこんなものである。

そして実業家を殺し、宝刀を奪い返した大石と記者がどこかで(本当にどこか説明はなかったと思う)刀を奉納してラストシーンなのだが、大石は突然消え、女記者の「おやすみ、浦島太郎」という独白で映画が終わる。

なお、上記のストーリーは完全にうろ覚えであり、順番は多少前後するがどうでもいい。誓って書くが、この映画はシーンが前後したところでビクともしないすごみを持っている。だが、明らかに低予算で作られた割には出来がよく、不思議な不思議な国の忠臣蔵観が見られる怪作である。色々書いてきたが、資料がなかったというのは推測にすぎない。だってまだ冷戦下の分断国家だし。ネットも何もないし。

だが、繰り返すようだがこの映画には、我々を引き付ける何かがある。B級映画好きなら見ても損はないだろう。

 

・B級とはクソとはなにか

ここまで二作品を紹介した。どちらもその道では一級と言ってよい。個人的見解だが、B級映画というのは限られた予算+状況下で面白い作品を頑張って作ったものと考える。クソ映画というのはその逆で、豊富な予算なり良い条件で酷い作品を作った、というものだと思う。だから、B級映画好きが多いのもうなずける。人々が頑張った痕跡を見たいから見る、という人も多いだろう。だからこそふんだんに予算を使ったり名優を無駄遣いしたクソ映画が暗黒の光を放ち、また努力したB級映画が映えるという、お互いに互いを照らすシステムがなりたつのだ。