気のゆくまま筆のゆくまま

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【小説紹介】宮本輝『優駿』

イントロダクション

ウマ娘」の影響もあり、巷は数年ぶりの競馬ブームに沸いている。クローズアップされる過去の名馬たち、ファンの後押しもあって進展していく引退馬支援、推し活と融合したかのように見える「UMAJO」戦略…一つ一つを見れば実に結構なことだ。

しかし光には必ず闇が従う。華やかな競馬会の裏には、淘汰される馬の悲哀、関係者による相克、富豪同士の争い、様々な悲喜劇が幾重にも重なっている。そんな光と闇を描いた作品が、宮本輝優駿』である。

 

 

宮本輝は言わずと知れた現代小説の大家。この作品も単なる競馬小説ではなく、社会小説・経済小説・群像劇・成長物語の要素を織り込みながら、雄大な作品に仕上がっている。

中小牧場に産まれた一頭の仔馬がきっかけで、人々がさまざまな運命に出会い、背負い、歩いて行く様を活写した名作である。

今回は私の「推し活」の一環として、この小説を布教すべく筆を取った。興味を持たれた方は、この小説と似通うところのあるノンフィクション『銀の夢』と共に一読して頂きたい。競馬に関する解像度が格段に上がるはずだ。

 

 

なお、この小説を原作とした映画がある。

 

 

だが尺が短く消化不良な映画となっているため、観るなら映画⇒小説の順で味わうことをおすすめする。逆ルートは推奨できない。というより止めた方が良い。

 

能書きが長くなった。以下、あらすじと登場人物紹介を行う。

 

あらすじ

静内の、シベチャリ川の畔にある「トカイファーム」では、牧場主の「渡海千造」が作り上げ、重賞戦線で好成績を残した虎の子の牝馬「ハナカゲ」に、有力で高額な種付け料を誇る種牡馬「ウラジミール」を配合した。ハナカゲは優秀な競走馬ではあったが繁殖にあがってから不受胎が続いていて、この配合は種が付くか付かぬか分からないハイリスクな賭博であった。

千造の息子「博正」の祈りが通じたか、一世一代の賭けが当たって、ハナカゲは受胎した。その後の経過もまず順調で、サラブレッドが出産する季節、四月半ばを迎えた。

渡海家ではその頃、ハナカゲだけではなく長女の「聖子」や犬の「ペロ」までお産を迎えて大童だったが、関西の馬主「和具平八郎」が来訪する予定であった。

その忙しいさなか、博正は祈った。

『どうか安産でありますように。生まれる仔馬が牡馬でありますように。風の精の申し子のように速く、嵐みたいに烈しく、名馬となる天命をたずさえた仔馬でありますように。…(中略)…姉の聖子も安産でありますように。ペロも無事に子犬を産みますように』

渡海一家や獣医の「横田」、そして和具と娘の「久美子」が見守る中、祈りに包まれた真っ黒な牡馬が生まれた。博正は震えた。彼が想像していた通りの格好だったからだ。

父ウラジミールの特長をよく受け継いだ、「祈り」のもとに産まれた仔馬を巡って人々が動き始めた。

 

おもな登場人物紹介

渡海家をめぐるひとびと
  • オラシオン…本作における主人公の一馬。父ウラジーミル・母ハナカゲという良血。幼名はクロ。漆黒(青毛とも書かれる)で雄大な馬体としなやかな筋肉を持ち、名馬の素質がある。ふとした切っ掛けで日本一の「吉永ファーム」でトレーニングを行うことになる。馬名は平八郎の秘書「多田時夫」が付けたもので、意味はスペイン語で「祈り」。

 

  • 渡海博正…本作における主人公の一人。渡海一家の長男で、聖子の弟。高校を卒業したばかりの若者で、トカイファームの跡取り。東京にも行ったことがないような、久美子いわく「ジャガイモ」「アホジャガ」。情熱家でトカイファームを一流の牧場にすると意気込む。シベチャリ川に祈る習慣があり、不思議な縁で結ばれたオラシオンに対して特別な思いを抱いている。美人で都会的で自由闊達な久美子に一目惚れして、惹かれていき、いつか思いを打ち明けると誓う。

 

  • 渡海千造…渡海一家の主でトカイファームの牧場主。何とか牧場のやりくりをしながら、時折借金をしてでも博打的な配合を試みる生産者。気の弱いところがあり、さまざまな物事をめぐって調教師に押し切られる時もある。

 

  • 渡海タエ…千造の妻。夫よりも気丈な女性。馬産、特に出産に関する眼は熟練していて、いつ頃お産になるかを当てられる。

 

和具家をめぐるひとびと
  • 和具平八郎…本作における主人公の一人。大阪で和具工業を営む実業家。父親の跡を継ぐ際、金策に窮する余り高額な馬券を買い、その金で盛り返した経験がある。その時の騎手が「増矢武志」であったことから、その後偶然知り合った調教師転身後の増矢に馬を預託している。競馬から足を洗うつもりであったが、クロの出産に立ち会い、どうしても惹かれるものがあって購入を決意した。

 

  • 和具久美子…本作における主人公の一人。平八郎の娘で相当な美人。自由闊達な性格だが、自分の美貌を利用出来るしっかりした人物。当初は同年齢の博正を歯牙にもかけない感じだったが、その実直さに惹かれていく。一方、父の秘書の「多田時夫」にも惹かれる部分がある。父からオラシオンを譲り受けるが、弟の「田野誠」の生きる希望にしたいと、オラシオンを譲渡する契約を結ぶ。

 

  • 多田時夫…本作における主人公の一人。和具工業の社員で平八郎の秘書。既婚。幾分とっつきにくく、端正で知的で落ち着いた容貌の持ち主。温かみと冷厳さを併せ持つ印象の人物で、とある事情から「ピノキオ」というあだ名がある。オラシオンの名付け親。生い立ちや女性関係を巡る暗い過去がある。平八郎に信頼され、誠に関する秘密を打ち明けられている。

 

  • 田野誠…平八郎が愛人の「京子」との間に作った子供。10代中盤。重い腎臓の病気を持っていて、人工透析を受ける。複雑な事情があり多田を信頼しているが、父の存在を知らない。

 

 

北海道の生産者
  • 吉永達也…最大規模の牧場で、将来は日本を席巻するとみられる「吉永ファーム」の主。傲岸であくが強く、アメリカやヨーロッパでも知られた名ホースマン。ノーザンダンサーの血に最も早く着目した一人で、その仔セントホウヤを購入、名種牡馬として活躍させる。博正を気に入っていて、オラシオンの育成を引き受ける。明確なモデルが存在する登場人物で、社台グループの祖「吉田善哉」がモデル。セントホウヤはノーザンテーストがモデルと思われる。

 

  • 藤川伝三…帯広の名生産者。80代後半。70年間馬作り一筋に生きてきた老人。相馬眼は非常なもので、馬の評価にはお世辞を言わないがオラシオンを見て感嘆する。実直な渡海一家のことを気に入っている。

 

 

競馬関係者
  • 増矢武志…栗東トレーニングセンター所属の調教師。元騎手。息子は現役騎手の「光秀」。まず一流の調教師とされるが、馬よりも金を重視するとも評されあくどい。怪異な外見と日ごろの振る舞いから、親子ともども久美子に嫌われている。調教師転身後に馬を預託して貰った関係上、平八郎に恩義がある。

 

  • 増矢光秀…関西所属の騎手。腕はそれなり。捻じれた性格で他のジョッキーから毛嫌いされている。とある行為をして以降、久美子に憎まれるほど嫌われている。それでも久美子に懸想しているが、余りにどぎつい手法を使うため彼女と周囲の嫌悪をより濃くしている。

 

  • 砂田重兵衛…栗東トレセン所属の調教師。一流の調教師で、名伯楽と称される。金よりも馬を重視し無理をさせない。しかし金にはがめつい。外見には愛嬌があるが厳格な性格で、人を人とも思わないところがあり敬遠されることもある。

 

  • 奈良五郎…砂田厩舎所属の騎手。クラシック戦線に乗った「ミラクルバード」という馬に乗ってから技術が開眼したが、降ろされる。ある事件がきっかけで覚悟が座り、度胸のある騎乗をするようになった。

 

  • 荒木…奈良の先輩で名騎手。年齢は重ねているが未だにトップジョッキーの地位を維持している剛腕。影に日向に奈良を助ける義侠心の篤い性格で、人望が厚い。

 

おわりに

以上粗々ながら概要を述べてきたが、先述したようにこの小説は単なるギャンブル小説ではない。

宮本輝が好きな人、あるいは私小説以外の現代小説が好きな人には合いそうな良作なので、気になった人は是非読んで欲しい。ただし、仮に観るならば、映画版を必ず先にすること。小説⇒映画の順でやるとがっかりする。

【小説紹介】これが『定吉七番』だ【長文注意】

イントロダクション

  • 定吉七番』とは何か

定吉七番』という小説がある。時代小説で有名な東郷隆氏が書いた作品だ。007シリーズのパロディであり、主に80年代中盤を舞台としている。大まかなストーリーとしては、大阪の丁稚兼秘密情報部員が、関西経済界の破壊を企む関東の秘密結社と戦うといったものだ。

PCエンジンでゲーム化されたほどの人気があり、現在ではKindleの合本版で読むことが出来る。そんな作品である。

 

 

私はX(旧Twitter)で度々定吉の紹介と普及に努めてきたが、そこまで読ませたいのなら丁寧に説明しろ!!と言われて書き始めたのがこの記事である。勢いだけで書いているので、読みづらさ等はご容赦願いたい。

現状『定吉七番』を読もうとすれば、先述のKindle版で読むのが一番である。よってこの記事では、この合本版に収録された分の登場人物及びエピソードを紹介していくこととする。固有名詞は原作小説で頻出する名称を参照した。後で用語辞典を作るかも知れない。

諸事情によってお蔵入りになった作品及び同人版・ゲーム版は対象外である。あらかじめご了承頂きたい。前説が長くなったが、いざ、浪速の夢が溢れる定吉の世界へ…

 

主要登場人物紹介

  • 定吉七番(セブン)」

コード・ネーム:定吉七番。本名:安井友和。

表の顔は船場の丁稚(丼池繊維振興会事務局連絡二課渉外係長補佐見習い)だが、裏の顔は1978年以来「大阪商工会議所秘密会所(OCCI)」直属の殺し屋兼情報部員。会所は各部員にコードネームを与えるが、中でも定吉ネームとそれに続く一桁の番号は、殺人許可証と同じもので特に優秀な人間に与えられる。

大阪府枚方市のアパート「やりまくり荘」が自宅だが、大阪市中央区北浜の寮(道修町・平野町の境)に在住。

年齢は20代中盤~30代前半くらい。坊主頭の、関西風のいい男。身長180cm、体重72kgを常にキープ。右後頭部には十円ハゲが、ほか数カ所に刀傷・銃創がある。

運動神経は若干鈍いが、殺人の技巧と闘争時の粘り強さが売り。破壊工作の心得もある。原付免許しか持っていないが、車の運転は出来る。

おもな武器は有次の柳刃包丁「富士見西行」で、ホルスターに入れて携帯している。銃器も使えるようである。

苦痛に対する耐久力や変装能力はなく、車両の偽装なども苦手。好色で敵方の女性工作員につけ込まれることがある。

皮膚炎の薬として「大濫膏」という毒消しを使っているが、媚薬にもなるため女性との戦いで優位をとる。

ストレスのせいか過食症の気がある。幼少期のトラウマから失禁癖があり度々漏らす。食い道楽で船場汁やオロナミンCが好物。鉄道に乗るのも趣味。

表の顔どおり唐桟の仕着せに前垂れかけという典型的な丁稚の服装をしていて、作中で洋装をしたのは数回。典型的な関西弁を話す。そのせいで正体がばれて危機に陥ったこと多数。

関西で最も危険な丁稚とされ、関東の狂信的な秘密(宗教)結社「NATTO」との闘いを繰り広げる。

なお、上記の情報の多くは秘密会所出版の業界誌『月刊・商人の友』やウィキペディアで入手することが出来る(作中設定)。その為彼の正体を知っている一般人も多い。

 

  • 「千成屋宗右衛門」

秘密会所の元締め。土佐堀の御隠居と呼ばれる。大阪の利益を守るためにはあらゆる手段を使う冷酷な老人。お迎え染みが出ている。ナタ豆煙管と通天閣型ライターを使用。

ケチで定吉からは「ごりがん爺」等と陰口を叩かれる。

 

  • 「雁之助」

会所の小番頭。情報主任。定吉の直接の上司。小太りで、眼が大きく頬が垂れ、おでこが狭く太い眉が特徴。芦屋生まれ。情が篤く、定吉に小遣いをやったり支援のために前線に出ることもある。

 

  • 「九作」

会所の中番頭。兵器主任。「はも切り九作」というあだ名があり、元板前。代々技術者の家系で、九作本人も池田のダイハツで研究していたことがある。定吉の適性を見極め、武器を支給するが壊される事が多い。

 

  • 「万田金子」

会所の秘書。非常に豊満な美人。20代後半。「ミス・マネー」とも呼ばれる。定吉の事を好いているが、アプローチをかけようとする度に宗右衛門達から邪魔をされる。才女であり対NATTO作戦を立案する事もある。

 

  • 「お米」

定吉たち情報部員の賄い婦兼カウンター・インテリジェンスの監視役。60代初めの丸々としたおばはんだが、相当な手練れ。若い頃は天下茶屋の寄席でお茶子をしていた。

 

  • 「留吉への二十六番」

極秘連絡専門。生の姿は見せない。主に着ぐるみ、置物、ゴミ箱などの中に入って定吉接触し、指令を伝える。

 

  • 「増井屋お孝」

定吉の恋人。定吉とは昔なじみで長く交際しているが、一線を越えた事は無い。20代後半か。お初天神境内の茶店で看板娘をしている美人。

帝塚山の、超お嬢さん女子短大の出身。先述の業界誌で定吉の正体を知ったらしい。本人の出番よりも定吉の見る夢や幻覚に出て来る事の方が多い。

 

各エピソードの紹介

作品情報

上述の通り『定吉七番』は80年代中盤以降を舞台にしており、初めて発表されたのは1985年である。基本的には文庫本として出版されているが、ゲーム版・同人版もある。漫画や演劇もあったらしい。筆者が把握しているのは、発表順に

 

☆『定吉七は丁稚の番号』角川文庫、1985年(のち講談社文庫、1994年)

☆『ロッポンギから愛をこめて』角川文庫、1985年(のち講談社文庫、1994年)

☆『角のロワイヤル』角川文庫、1986年(講談社文庫、2002年、電子のみ)

☆『ゴールドういろう』角川文庫、1986年(のち講談社文庫、1994年)

☆『太閤殿下の定吉七番』角川文庫、1988年(講談社文庫、2002年、電子のみ)

⇒同年『定吉七番 秀吉の黄金』(PCエンジン用)としてハドソンでゲーム化。

『ネバー・セイ・ネバーおいでやす』講談社小説現代」で1994~95年に連載されるも、諸事情で未完。

☆『定吉七番の復活』講談社、2013年

『ビンボー・怒りの脱出』同人版、2014年~15年

『外伝「小番頭 雁之助どんの恋」』同人版、2015年

マンコ・カパックの陰謀』同人版、2015年

マンコ・カパックの逆襲』同人版、2015年

 

である。

ここからは、2024年時点で入手が容易なKindle版に収録されている、☆のついたエピソードのあらすじと登場人物を概観する。

 

定吉七は丁稚の番号』

あらすじ①『掛け取りの一「ドクター・不好」』

秘密会所が湘南地区に残置していた諜者、男女二名が消えた。駆け落ちにしてはおかしい点がある。万が一、彼らが他の組織に寝返っていたら…

会所の元締めたる宗右衛門は、アラビア女に毒物を仕込まれ入院していた定吉七番を復帰させ、調査にあたらせる事にした。

 

「ドクター・不好」登場人物
  • 「谷町天六・平野めぐみ」

秘密会所湘南会所地区情報部員。表の顔はサーフショップの店長と店員。突如として二人とも行方不明となり、支部として使っていた店も焼尽したため定吉の出張が決まった。

 

  • 「謙一」

湘南の漁師。漁撈及び鮮魚小売商である「魚半」の長男。異様に背の高い男。五年前に定吉の助手として働いた事がある現地協力者。喧嘩っ早いところがある。

 

  • 「プー・ハオ博士」

中国出身の実業家。食品工場をいくつも持っている。地元では篤志家としても知られ、江ノ島の観光事業に協力するといって史跡補修等も行う。博士号を持っているインテリ。部下には千葉県人が多い。

 

プー・ハオが最も信頼する部下。生物学に長けており表向きは水族館の職員。サイドビジネスは暗殺と風俗営業(射ち出し娘)。獲物は毒伊勢海老(健二君とあつし君ほか)使い。

 

あらすじ②『掛け取りの二「オクトパシー・タコ焼娘」』

定吉は恋人のお孝から、女子短大の後輩捜しを依頼される。正式な仕事では無いので手当は出ないが、調査をした結果、彼女たちが雅楽の会に出ていた事が分かった。

動き回る先々でやけに辛いタコ焼を食わされ辟易していた定吉は、古風なタコ焼屋台を見付けて舌鼓を打つが、目の前で店主を爆殺されてしまった。

 

オクトパシー・タコ焼娘」登場人物

通称「ビリケンの平助」。学生時代には京都市下京区の下宿で、爆弾を作る作業に熱中していた爆発物のプロ。潜伏活動を続ける才覚がありコネもある。定吉から爆弾の調査を依頼される。

 

  • 「西岡西然」

浄土宗寺院の和尚。インパール作戦の生き残りで、戦友を供養するために出家した。故事に詳しい。三人娘が出席した雅楽の演奏会に同席していた為、定吉にヒントを与える事になった。

 

  • 「アジミール・ナナーク・シン」

通称「天満のトラやん」。飲食店・香辛料の輸入・食品製造業を営むシーク教徒。インドでは名門の家柄を誇る。父はインド国民軍の将校で、戦後日本に亡命した。極辛のタコ焼ソースマハラジャ」が主力商品。雅楽の会に出席していた。

 

  • 「明石屋由香理」

通称「ライラ」。女子短大生グループのリーダー。美女。血の気が多くすぐ手が出るタイプ。相当な野心家で、実家のうらぶれた商売を好まない。

 

『ロッポンギから愛をこめて』

あらすじ

関東の秘密結社NATTOは常に大阪の秘密会所と抗争してきたが、「滅西興東」を掲げる専属殺人機関「KIOSK(通称「贅六殺し」)」は失策を続けていた。

そこでNATTO上級評議員KIOSKの指導者たる幕内弁助は、組織の面子を守り、かつ大阪方に二重三重の打撃を与える為の計画を立案・実行させる事にした。内通者を仕立て上げ、定吉七番を東京におびき寄せ、醜名を残した上で殺す。

 

NATTOの攻勢が始まろうとしていた。

 

登場人物
  • 「幕内弁助」

NATTO上級評議員KIOSKの指導者。表の顔は大手食品コングロマリット「満食」の会長。1906(明治39)年産まれ。80歳前後。秩父の貧家から奉公人となり、板前の修業をして満州に渡った後、戦後の混乱のなかで「納豆団」をNATTOに発展させた立役者。

老獪かつ冷酷な人物で、今まで強硬策ばかり採っていたNATTOの対関西政策の転換も視野に入れている。

 

  • 「深川小梅」

KIOSKの実働部隊を動かす老婆。表の顔は飲食店や風俗店の経営者。殺人の味が忘れられない女。奉天で満鉄御用の料理屋をしていた時に幕内弁助と出会う。当時から陸軍の暗殺者だった。性的倒錯者。

総合殺人学校教官の木滑久良から推薦を受け、エース暗殺者たる木村修二(コードネーム:赤坂一号)以下に命じて定吉の殺害を謀る。

 

  • 「大文字」

KIOSKの作戦参謀。表の顔はTV局のディレクター。女好きで手が早く、頭の切れる男。よく深川小梅と組まされる。規律を軽んじるところがあり一部の同志から睨まれている。自分の本名を恥ずかしいと感じている様子。

 

  • 「立穴裕子」

表の顔は超売れっ子の辰巳芸者。芸名:桃千代。裏の顔はKIOSK下部組織員。コードネーム:深川十六号⇒昇進して赤坂五号。満食主催のミス・駅弁コンテストに優勝した。デビューしたての名取裕子にそっくりと表される美貌の持ち主。身長170センチ弱。プロレス技が得意。親が関西商人の手で破滅した為、復讐の意図もあってNATTOに入った。

今回の作戦で定吉を陥れる為に用意された美人局。八王子の訓練キャンプ(と女子大)で特殊訓練を受けた後、女子大の四回生として定吉に接近する。

 

  • 「田中安雄」

表の顔は売れっ子の文筆芸能人。裏の顔は秘密会所所属で港区、渋谷区における残置諜者のキャプテン。長野県出身。真田忍者の家柄で、代々大阪方に付いて働いている。情報収集能力と変装能力に長け、伝来の「真田のひとよ切り」という尺八を使って戦う。

女子大生から警官まで、幅広い女性にモテる。あだ名は「ペンギンのヤッちゃん」。運転技術に大いに問題がある。六本木文化評論家の番場康夫を、あらゆる面で天敵としている。

 

『角のロワイヤル』

あらすじ

いじけて職場放棄をしていた定吉。しかし留吉への二十六番に捕まり、老舗の大店「立売堀の豆屋」邸に連れて行かれる。そこで定吉は、NATTOの手に落ちたという若旦那奪還の命を受け、豆屋の私設非合法丁稚たる知松と共に東京へ向かった。

 

一方その頃、NATTOは関西に軍事的な攻勢をかけるため、フランスから兵器を輸入しようとしていた。兵器会社の社長モンフェランは元々フランス情報部所属で、やり手の野心家である。彼は商談や政治的宣伝の為に訪日する事になっていた。同時にこの社長を仇とする過激派の元構成員ピエール・デュボアも、フランス本国よりも日本の方が警備が薄いと判断し、亡命地を捨てて東京に向かった。

 

登場人物
  • 「ジャン・ピエール・デュボア」

フランス軍人。50代半ば。階級は中佐。インドシナアルジェリアを転戦した経歴を持つ、優秀な狙撃手。フランス本国が植民地放棄に傾く中、極右過激軍事組織「OAS」の一員としてド・ゴールの暗殺を図るも失敗、亡命する。

かつて情報部員として自分たちの弾圧を行ったモンフェランを憎み、フランス国外ならば殺せると判断し来日。暗殺の機会を伺う。なお日本人女性と交際していた事がある。

 

  • 「フィリップ・モンフェラン」

元フランス情報部員で、現在は兵器会社社長。巧みに政財官界を遊泳してきた男。更なる地位向上を企み、入閣の打診を受けるほどに上り詰めた。元情報部員らしく世論を操る能力があり、訪日はその一環である。「アルルの女」が好みでよく口ずさむ。

 

  • 「豆屋善兵衛」

芦屋の富豪。大阪で代々続く老舗の主。秘密会所後見役。木村重成の子孫という家系伝説がある。会所の元締め宗右衛門とは昔なじみ。跡取りの善彦がNATTOの手に落ち、家宝を売ってまでしてリカに入れ込んでいる事を知り、定吉に奪還を依頼した。

 

  • 「青山リカ」

表の顔は女子大生。裏の顔はNATTOのコンパニオン・クラブ「リカちゃん軍団」の主催者。コード・ネーム:麻布二号。栗色の髪をした日仏混血の美人。豆屋の跡取り善彦を薬漬けにして、たらし込んでいる。目的の為ではあるが、善彦の金を使って衝動的に高級アンティークを買って困らせたりする。

本気で善彦に惚れている節があり、上部の命令を拒む事も辞さない。配下のリカちゃん軍団は女子高生を中心に構成された秘密愛人クラブだが、軍事教練を受けていてある程度の戦闘力を有し、女子高生なので機関銃が撃てる。装甲車の運転も出来る。

 

  • 「村上知松」

豆屋の私設非合法丁稚。年の半分を東京で過ごす通人。全身をブランドバッグ(パチモン)で固めている。

豆屋の関係者(大抵裏の顔がある)は関西人である事を隠し、原宿(渋谷区神宮前)にある木造モルタル二階建て、入り口が一つで便所が共用というボロアパートを隠れ家としているが、表の顔がスタイリストやファッション関係といった洒落た職業である為、職業上のイメージと現実生活との間に存在するギャップにトラウマを抱えている。

 

  • 「住吉の平吉」

コード・ネーム:ハンズ東キュー。豆屋の草の者。東京に着いた定吉達の運転手などを務める。グリップの部分に阪神タイガースのマークが入った拳銃を愛用。

 

  • 「野田・中町」

内閣調査室所属の非合法活動員。内閣調査室対外情報課執務部の最高顧問、十八世服部半蔵大盛からの命を受け、会所およびNATTO牽制の極秘任務にあたる。なお野田はンジャメナで大統領暗殺計画を防いだ経歴から、チャド番刑事と自称する。

 

  • 「飯岡助八郎」

表の顔は群馬県選出の参議院議員。無所属で当選六回。裏の顔はNATTOの幹部でリカのパトロン。赤ら顔で、耳障りなダミ声の中年男。

 

  • 「御屋形さま」

NATTO最高幹部評議会議長。ドスのきいた塩辛声が特徴。口癖は「ん、まあ、このー」「そうでしょ」。

 

『ゴールドういろう』

あらすじ

覚醒剤入り納豆工場の破壊工作をしていた定吉は、うらぶれたオッサンで会所所属の情報員、弁吉と出会う。

その後休暇で有馬温泉を訪れていた定吉は、秘密会所情報部員の特権を利用してロハの旅行を楽しんでいたが、偶然居合わせた太鼓持ちから、自分の旦那(大阪の菓子屋の若旦那)を、名古屋の菓子屋・鯱鉾屋金蔵に仕掛けられたインチキ賭博から助けてくれと頼まれ、成り行きで助ける。しかし、インチキの種として使われていた水着美人の殺害事件に巻き込まれ、特権を濫用していた事がバレて左遷されてしまう。

 

懲罰としてバーゲン会場に飛ばされ、ワイシャツにネクタイ、アームバンドという格好で接客していた定吉だが、鯱鉾屋の陰謀を嗅ぎつけた会所の指示によって、助手となった弁吉及び支給されたスーパー・カー(定吉カー)と共に名古屋へ向かった。

 

登場人物
  • 「弁吉」

通称「伝法橋の弁吉」。酒焼け顔の中年男。離婚歴あり。熟練の工作員で元「定吉二番」だが、失敗をやって殺人許可証を取り上げられた。名古屋にある程度の人脈がある。

 

  • 「茶目八」

太鼓持ち。元は商家の番頭だったが、身を持ち崩して現在の職に就いた。アホの坂田によく似た男。有馬温泉でインチキ賭博に引っかかった餅屋の若旦那を救おうと、定吉接触する。

 

  • 「餅屋光乗」

禁裡御用を勤める老舗の主で、関西豆和菓子製造連合会理事長。退官間近の老教授を思わせる雰囲気の老人。金蔵から小豆の買い占めや息子を対象にしたインチキ賭博といった攻勢を受けていて、定吉に仕事を依頼する。

 

  • 「鯱鉾屋金蔵」

大手和菓子メーカー「しゃちほこういろう」本舗会長にしてプロのゲート・ボーラー。「ゲートボール五人衆」と呼ばれる老人チームを率いる。通称「鯱金」。

ダイエット食品のパンフレットに必ず出て来るタイプ。ただし使用前の肉マンジュウの方。力士くずれの乙戸岩を護衛役に従えるインケンな男。改造したキャデラックを乗り回す。

壮大な野望を秘め、様々な事業に偽装して各種物資・機材を集めている。

 

  • 「乙戸岩権之助」

竜田山部屋にいた元外人力士。バンクーバー生まれのドイツ系カナダ人。身長二メートル十センチ、体重百九十キロ。金蔵のボディガード。鉄をも曲げる怪力の持ち主。特技は鬘投げで、石像を砕く威力がある。融通のきかない性格。

 

名古屋在住の親子。父の甚助はサイコロ作りの達人だったが、近年は老いている。桜子・梅子は双子の娘で通称「栄町のリリーズ」「しゃちほこピーナッツ」。親子ともども金蔵に協力させられている。

 

  • 「星乃真王」

大柄な女性で、金蔵の協力者。端正な顔立ちだが、物腰はどう見ても男。野太い声が特徴。優秀なパイロット。弁吉とはただならぬ因縁がある。

 

『太閤殿下の定吉七番』

あらすじ①『掛け取りの一「秀吉の黄金」』

行きつけの喫茶店で、豊臣秀吉の財宝に関する古文書が発見されたというニュースを小耳に挟んだ定吉。その後出勤した定吉は、御隠居からNATTOの攻勢が強まっているという情報を聞かされた。既に十人以上の同志が殺され、例の古文書もその工作員によって盗まれたという。会所は定吉に対し、仲間の仇討ちと古文書の奪還を指令した。

出張経費削減のため、ピックアップされた情報員の中から二人だけを同行者とした定吉は、「ニュータイプ・納豆五人組」壊滅作戦遂行の為に東京へ向かった。

 

「秀吉の黄金」登場人物

通称「サイフ」。呉服屋の手代。会所の臨時雇用員(アルバイト)。金の管理については超一流だが、戦闘力と応用力に欠ける。戦前産まれでくずし字が読める。

 

  • 「坂田小六」

通称「キョウジュ」。元大学教授で郷土史家。会所の臨時雇用員。コロンビアのコカイン王と繋がりがある。稀覯本を扱う古書店「銭屋書店」を経営。定吉行きつけの喫茶店の常連でもある。

 

  • 「河内菊乃」

通称「キクちゃん」。ブティックの店員。会所の臨時雇用員。社交辞令が特技で色仕掛けもする。身体が猫のようにしなやか。喜怒哀楽が激しいタイプらしく、大喜びする描写が多い。

 

NATTO内部で売り出し中の、大阪商工会議所向けに編成された窃盗チーム。コード・ネームはそれぞれ「サラリーマン」「コマンドウ」「サヤカ」「センセ」「トシちゃん」。それぞれが職業に応じすぎた名称であり、定吉に呆れられている。

 

あらすじ②『掛け取りの二「真昼の温泉」』

会所の裏切り者デバ七を追って山陰に赴いた定吉だが、他の追っ手は苦戦しており、結局定吉が要となる。デバ七が今庄温泉に居ると踏んだ定吉は、ひなびた温泉街に足を踏み入れた。

 

「真昼の温泉」登場人物
  • 「雨千代」

売れっ子の芸者。三重県産まれで、伊勢湾台風が御座岬を襲った日に産まれた雨女。芸名の雨千代もそこから採られた。金沢で芸者になり、余りに雨女な為改名を勧められても譲らず、面白いやつということで人気を得た。ある目的があって今庄温泉に向かう。

 

  • 「ほっこり屋デバ七」

表の顔はほっこり屋(焼き芋屋)の若旦那だったが、父の意向で非合法丁稚訓練を受け爆発物の取り扱いに長ける。しかし表の事業拡大を企図した結果NATTOのエサにかかり、内通。フィリピンに逃走したが、関西に舞い戻った為会所に追われる事となった。

 

  • 「上山茂雄」

温泉街の交番に勤める巡査。警察内部の不正を暴いた為左遷されたが、それでも気の収まらぬ連中、特に警察OBの反社会的勢力に狙われている。射撃の名手。

 

定吉七番の復活』

あらすじ

ソ連崩壊前のある時期、極秘任務でスイスを訪れた定吉。しかし、氷河地帯で敵を追跡している最中にクレバスに転落。行方不明となり死亡判定された。

それから二十有余年、日本経済は低迷し、大阪の景気も後退。スタンドプレーを好む、父っちゃん坊やみたいな法律家の大阪市長が当選し、秘密会所も「OKS」に改組されていた。東西の融和も成立し、OKSとNATTOが協力する事も普通になった。

 

OKSは死後冷凍された大阪の著名人を貯蔵する施設を備えているが、その中には氷河の中で発見された定吉の姿もあった。極めて良好な冷凍状態にあった定吉は、蘇生する事が可能だった。余りにも貴重な研究サンプルとなった丁稚の争奪戦を、OKSは次期オリンピックの開催権と引き替えに手中にしたのである。

四捨五入すれば三十年前の情報を握っているという事で蘇生された定吉だったが、現状不認識によるパニック状態に陥り、医師団は治療の中止と再冷凍を提案した。OSK上層部が躊躇う内に、アダルトビデオ等を点けっ放しで暮らしていた定吉は、暇を持て余した挙げ句脱走に成功した。変わり果てた大阪や枚方の街を見てショックを受け、さまよい歩く定吉。淀川沿いで黄昏れていると、懐かしい声が彼を呼んでいた。

 

定吉の蘇生と同じ頃、NATTO過激派の領袖田長巻子は、ネオナチの力を借りてNATTO創設者であり父でもある田長岳永の復活を成し遂げるべく、最後の準備を行っていた。

 

登場人物
  • 「千成屋千栄子」

OSKの最高責任者。通称「S」。定吉いわく「笠置シヅ子のような」おばはん。宗右衛門の娘。事業仕分けや予算削減で最盛期の三分の一になったOSKを運営する最高責任者。飴を配る癖がある。父同様やり手だが、芝居がかった演出を好む。

 

  • 「岡田真弓」

コード・ネーム:箕面801号。大阪商工会議所情報システム課所属。情報部員としての経験が浅いものの、能力はある。二十代の美人で、学生の頃はミスコン荒しで鳴らした。

一応阪神ファンではあるが、その名前からタイガースを連想される(「岡田彰布"前監督"」と「真弓明信」による)のは嫌い。同僚の439号も嫌い。定吉とは互いに奇妙な感覚を覚える仲。重大な出生の秘密がある才女。

 

  • 「田長巻子」

表の顔は政治家・実業家。裏の顔はNATTO過激派の領袖。元衆議院議員で当選六回。新潟が地盤で、様々な事業を手がけるコンツェルンのトップ。夫も政治家で防衛大臣

「パパ」の岳永は闇将軍の異名を取った有力政治家で、NATTOの創設者。

 

  • 「ハンス・ヨハヒム・ホーフシュタイン」

通称「ドクター」。ネオナチの科学者。医学・先端工学の天才。敗戦後、スイスに潜伏。NATTOの支援を受け、数々の発明品を提供してきた。老いてはいるが、頭脳は衰えておらず看護婦兼助手のヘルマのサポートを受けながら岳永復活に協力する。

 

  • 「ハイディ」

スイスの田舎娘。豊満なバストと栗毛のショートカットが特徴の美人。小柄だが相当な力持ちで、軽く人を小突いただけで数メートル吹っ飛ばす事が出来、格闘戦や銃器の扱いに長ける。恋人でフィットネス・クラブのインストラクターをしているペーテルを拉致され、僅かな手がかりを元に、日本にあるという「ニガタ」に向かう。

 

  • 「古志水元太郎・千代」

新潟出身の兄妹。二人ともNATTO過激派所属。コード・ネームは兄が阿賀野川二号、妹が信濃川十四号。妹は老親の面倒を見ながら、兄は長岡で飲食店を経営しながら組織の活動に従事している。元太郎は薬物中毒のマゾヒストで、バイトの愛ちゃんをウェイトレス兼助手兼女王様にしている。

兄が実家を飛び出した為、二人は音信不通になっている。

 

  • 「ジョンオン」

北の国から来た御曹司。丸々と太った巨漢。かつては後継者の第一位と見られていたが、失脚してマカオに亡命。田長巻子の誘いに乗り、遊蕩の果てに目減りした資産を運用すべく小型潜水艇で来日した。オタクでマゾ。

 

  • 「広末涼太・木村帰冷」

オタク。秋葉原で強請られている所をハイディに助けられ、彼女の協力者となり新潟に案内する。軽はずみで何事も勢いだけで動き、仮想世界と現実の区別がつかないタイプ。地理に弱い。思い切りは良い。

 

  • 「今戸のおっちゃん・今戸アンナ」

表の顔はお好み焼き屋を経営する夫婦。裏の顔は新潟におけるOSKの残置諜者。おっちゃんのコード・ネームは放出7号。親子ほど年の離れた夫婦で日本人とロシア人の国際結婚。

おっちゃんは情報の収集・分析に長けた諜報員で、戦闘力も高い。妻のアンナはロシアの特殊部隊や情報総局に居たベテランで、高度な尋問・拷問技術を身に付けている。

 

  • 「モンティ」

新潟県某所で監禁されている男。相当な高齢。呼び名はモンテ・クリスト伯から採った。監禁といっても食料には困っておらず、気付かれなければ外出も出来る。脱走する意志は無い。

NATTOにとって重要人物ではあるが、下手に動かれても困るので記憶の改竄・脳の手術で動きを封じられている。

 

  • 「田長岳永」

かつて闇将軍と言われた大物政治家。二十数年前に肉体的な死を迎えたが、ドクターの手で脳だけ取り出され、納豆菌などを使った培養で生命活動を維持していた。口癖は「まー、そのー」「え、まー」「よっしゃ、よっしゃ」。

 

おわりに

長々と書いては来たが、ここまで読んだ人は私の駄文と胃もたれするほど濃い登場人物の面々を見て頭痛を覚えている事だろう。

しかし、著者の東郷隆氏はベストセラー小説を連発し、数々の賞レースも制した名文家であり、『定吉七番』も007のパロディのみならず、当時の世相を反映した社会派(?)小説としても読める。

まだ日本が元気な四十年前に、その時点で既に天然記念物と化していた丁稚が、東側のスパイを次々に葬るスパイ・アクション。冒頭で書いたように、この作品はまだ生きている。Kindleで生きている。少しでも多くの人が、この作品に触れて、余命が延びる事を祈念する次第である。

 

令和5年2月12日 これが『定吉七番』だ しまい(7月16日、一部加筆)

神社に行った話…氷室神社

今回紹介する神社…氷室神社(参拝時期:2021年11月)

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外観。奈良公園に隣接している。

・氷室神社について

氷室神社は古代、天皇に献上された氷を保管した氷室に由来する神社である。

祭神は闘鶏稲置大山主命・大鷦鷯命・額田大仲彦命。氷を所望した仁徳天皇と、それに答えた家臣などが祀られている。

かつては興福寺春日大社と関係が深く、南都舞楽の拠点として知られたが、維新後は氏子と冷凍氷業界の奉賛によって維持されているという。

 

・神社の写真

・表門

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表門。御所から下賜されたもの。東西の廊と並んで奈良県指定文化財

・本殿

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本殿。こちらも奈良県指定文化財新選組が結成された、文久三(1863)年のもの。手前には舞殿と拝殿があるが、位置関係的にうまく撮影出来なかった。

・その他末社など

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舞光社。狛光高を祀る。舞楽関連のもの。

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住吉神社。鳥居と表門の中間にある。

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招魂社。祖霊社から発展か?未詳。

 

・おわりにかえて

氷室神社は奈良観光のゴールデンコース、興福寺東大寺の中間に位置する。

アクセス性も良好で、神社の雰囲気もよい。ふらっと寄るには最高の位置にあるので、是非足を伸ばして欲しい。

 

参考サイト

氷室神社公式サイト

www.himurojinja.jp

 

 

神社に行った話…葛原岡神社

今回紹介する神社…葛原岡神社

参拝時期…2020年6月

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本殿。初夏で良い季節だった。

・葛原岡神社について

葛原岡神社は後醍醐天皇の家臣、日野俊基を祀る神社である。創建は明治20(1887)年。後醍醐天皇を顕彰する、明治期の時流に乗って建てられた。

俊基は後醍醐天皇の手足となって鎌倉幕府倒幕に奔走したが、度々幕府に露見した結果、元弘2(1332)年に斬られてしまったという人物だ。明治になり、後醍醐天皇及びその周辺を讃える雰囲気が醸成されると、他の「忠臣」達と並んで称揚されている。

現代では、末社の合槌稲荷と並んで鎌倉の人気観光地、源氏山有数のパワースポットとして人気のようだ。

 

・参考サイト

葛原岡神社ホームページ

www.kuzuharaoka.jp

 

神社に行った話…大國魂神社

今回紹介する神社…大國魂神社(参拝時期…2018年ダービー当日)

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大國魂神社社殿。おおよそ4年前。

大國魂神社について

大國魂神社東京都府中市に存在する神社で、過去に紹介した大宮の氷川神社等と武蔵国一宮を争う古社である。景行天皇41年の創建と伝えられ、事実とすれば二千年近い歴史を誇る。武蔵国国府跡が近くにあり、かつ国分寺国分尼寺とも連絡されていた形跡があることから、古代から相当重要視されていた神社であるようだ。主祭神大國魂大神、いわゆる大国主命のことである。

古くから武家に信仰されてきた社であり、前九年・後三年の役源平合戦の折、源氏の棟梁たちが祈りをささげたという。例大祭は全国的にも有名なくらやみ祭であり、実際の祭りや司馬遼太郎著「燃えよ剣」作中の描写で知られる。

現在でも府中市屈指の神社として信仰を集めるほか、隣接する東京競馬場で一勝負打つ人たちが、絶えず訪れることで知られる。

 

・参考サイト

大國魂神社ホームページ

www.ookunitamajinja.or.jp

神社に行った話…別所沼弁財天

今回参拝した神社…別所沼弁財天

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祠になっている。

・別所沼弁財天について

別所沼はさいたま市南区にある沼で、周辺は公園として市民の憩いの場になっている。その地に鎮座するのが、今回紹介する別所沼弁財天だ。

かつて別所沼周辺は浦和の名勝として知られ、大正から昭和初期には小島長次郎という人物によって整備され、公園となった。その時小島は沼の島を構築し(現地の由来記による、島がこの時作られたのか前からあったのかは未詳)、東京・深川の洲崎神社から弁財天を分祀した。これが別所沼弁財天の始まりである。

現在、上記の通り公園は近隣住民の憩いの場となり、弁財天も良く整備された祠となっている。埼京線中浦和駅が最寄りだが、武蔵浦和や浦和からも行ける。

 

神社に行った話…上野東照宮

今回参拝した神社…上野東照宮

 

上野東照宮について

上野東照宮は慶安4(1627)年創建で、武将として有名な藤堂高虎の手による。

社伝によると家康が臨終の際、側近の高虎及び天海僧正を呼び、三人の魂が一緒に鎮まる所を作って欲しい、と遺言したという。そしてこの東照宮が建てられたのだが、当初の祭神は遺言通り徳川家康天海僧正藤堂高虎の三人だったとか。

幕威が盛んだった時代に建てられたため今も残る鳥居・石燈籠・銅燈籠は諸大名が寄進したもので、どんな大名が寄進しているか探してみるのも一興だろう。

 

そんな上野東照宮は数々の動乱を潜り抜けてきた。上野一帯が焼亡した上野戦争関東大震災第二次世界大戦といった戦火に遭いながらも、創建当時のまま社殿が維持されているのは、天下人徳川家康の神徳によるものだろうか。

現在の祭神は徳川家康徳川吉宗徳川慶喜の三将軍。上野と言う行楽地にあることもあり、また令和4年1月現在、生まれたばかりのパンダの御朱印を発行していることもあり、多くの人が参拝に訪れている。以下、写真とその説明。

 

・神社の写真

・参道と鳥居

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参道の入り口。鉄道利用だとここから入るのが便利。実は境内の横にも参道がある。

 

・水舎門

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参道を進むとこの門をくぐることになる。創建当初から残る貴重な門。

 

・神楽殿

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楽殿。明治7(1874)年のもの。現在でも定期的に神楽が行われている。

 

・唐門・拝殿

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唐門と拝殿。両方とも創建当初のもので、国指定重要文化財。左甚五郎作と伝わる彫刻が見事である。なお、社殿は拝観料を支払えば外部を見学できる。

 

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門の内側から撮った社殿がこちら。筆者の腕ではこれが限界。


・栄誉権現

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栄誉権現。元は大奥にあったらしいが、暴れて(!?)追放。その後いろいろな家を転々とした挙句、大正年間にこの地へ移る。家康のイメージから遷座したのだろうか?

 

・おわりに

上野東照宮は立地が良く、また私が個人的に東京国立博物館へ良く行くこともあり、ちょくちょく参拝する神社である。上野かいわいに出かける時には、ふらっと寄ってみると面白いかも知れない。

 

・参考サイト

上野東照宮ホームページ

www.uenotoshogu.com